endingにはまだ早いから

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生徒Y

合わない生徒がいる。

問題児だ、と聞いていた。引き継ぎ書は信じられないくらい長文だったので、覚悟はしていた。

合わないなら、合うまでちょうどいい距離感を模索すればいいと思って、私は少し距離を置いて接していた。そこに"フレンドリーで笑顔な怒らない優しい先生"は居なかったと思う。

マニュアル通りに予習はしたし、たぶん、ただの普通の先生。まぁ、性格上、明るくて面白いから、それは素で出てはいるけれど

『お客様を楽しませるエンターテインメント』

は、やってなかった。

 

 

でも、今日私の授業五分前にその子が

『先生…分からない所があるの……』

と、か細い声で言ってきた。

少しなら見れるよ、と言うと、

70点の算数のテストを見せてきた。

六年生でなら、まずまずな点数かな?と思い、とりあえず間違えた問題を確認していく。

後ろから声がかかる。

「まぁまぁな点数だな。でも、ただの計算問題でミスってるようだから、お前はバカなんだよ」

このベテランで年配の先生の口調はいつもこうで、生徒も反抗心や褒められたい一心で成績が上がっているのでこの口調は良しとして欲しい。

 

まぁ、鞭が利くのは飴があるからだろう。

 

問題のあるその生徒Yは、お弁当を食べていても、喋りかけてもらえないし、私の授業中に別の先生が来ても、その子は話しかけてはもらえない。

先生達も、困るんだ。話しかけることも話しかける内容も、悩んでいるんだろう。

その子は、解説を聞きたがらず、反抗的で慢心的であったからだろう。

「教え方が下手〜」「解説ばっかりでつまんなぁ〜い」と、彼女に言われたことがある私が言うのだ。

 

そして話は戻る

「まぁまぁな点数だな。でも、ただの計算問題でミスってるようだから、お前はバカなんだよ」

そう言われたその子は凄く困ったように笑っている。

1問教えると、五分経ってしまった。私の授業が始まる。

ごめんね、とその旨を伝え、別の先生を呼ぼうか?と聞くと、大丈夫、と言った。

先ほどの少し口の悪い先生も、別の先生呼んで教われよ。迷惑だろうが。と彼女に声をかけていたが、彼女の後ろ姿は自習室に消えていった。

 

その後、私も授業を終え、ふと気になって自習室に向かった。

「もう教わった?」

と聞くと、まだだと言うから、じゃあ向こうで教えるよと声をかけ、問題の続きを解き始めた。

解き出して数問、時間にして数十分、

彼女の電話が鳴る。コール音ではない。メールかなにかだろう。

お母さんから、まだ帰らないの?とメッセージがきたそうだ。

「もう1問だけ」

と言って解き出す生徒Y。

ものの数分で解き終わると

「先生は明日は来ないの?」

と言ってきた。今日は木曜日だ。

私は金曜日に授業が入っていないが、既にこの子に優しく楽しい先生として教えてあげたいと思いだしていたので、来るよ。と伝えた。

その子は、3時半に来れる!と元気よく言う。可愛げが無いなんて嘘じゃないか、と教員室でのやりとりを思い出した。

早すぎるなぁ〜。夕方頃なら来られるよ。

そう伝えると「ちゃんと働いてるの?」と言ってきた。たぶん、そういう所だよ。また、教員室での会話を思い出しながらも、明日もう少し早めに来ようと思った。

 

 

1人味方がいればいい。

1人最高な先生に出会えればいい。

 私がなれるだろうか。

全先生から、煙たがられ、私に回ってきたあの子に、私がチャンスをあげられるだろうか。

もっと上手く生きる道を教えてあげられるだろうか。

 

これだけは言える。

依怙贔屓をしない先生なんて、エゴだ。