知らぬはバカだが幸である
※この物語はフィクションです
sideA
「知らぬはバカだが幸である」
バカみたいな寝顔を晒す彼に呟く。
今幸せそうに私を腕に抱いて寝ている、私の彼氏。
幸せの定義を決めておかなくてよかった。
昨日結婚した幼馴染への気持ちを隠し通したまま祝福ができてよかった。
幼馴染の彼が幸せそうでよかった。
私の彼氏が幸せそうでよかった。
この幸せ全部、あなたが知らないから成り立ってるんだよ。
何度も消したLINEや私の目に映る彼を、自分で消したのはこの幸せを守りたかったから。
だから、私は彼氏のことを知らぬはバカだが幸であると言っても許されるんだ。
心の中で昨日呟いたのを思い出した。
大好きだったあの人、さようなら。
どうせ墓場まで持ってく秘密を、知らせるなんてことはしないけど、あなたがバカでよかった。
そう思って、私は彼にキスをして眠りに落ちた。
sideB
「知らぬはバカだが幸である、ね」
腕の中で寝息を立てる愛おしい彼女。
君が幼馴染を好きなことも、昨日、結婚するまで諦めきれずにいたことも全部全部知ってるよ。
幸せの定義を決めておかなくてよかった。
幼馴染が結婚してよかった。
彼女が諦められてよかった。
彼女が隣にいてよかった。
この幸せ全部、君が知らないから成り立ってるんだよ。
何度も折れそうになった心を鼓舞したのも、結婚式の時に泣きそうな君をただ耐えて見ていたのも、この幸せを守りたかったから。
どうせ墓場まで持ってく秘密を、知らせるなんてことはしないけど、君がバカでよかった。
そう思って、キスをして眠りに落ちた。